浜崎祇園用語辞典
た行


太鼓(タイコ) 東組太鼓
 囃子の速さを左右する、拍子をとる楽器、またそれを演奏する者のこと。
 浜崎の囃子では、大太鼓と締太鼓(しめだいこ)の二つを、左右の手にもったバチで叩く。大太鼓を叩くのは右手のみである。

 東組では締太鼓を右手から叩いて右手で終わるようにするのが型として良く、手の回し方まで含めて覚えた方がスムーズに叩くことができる。バチは親指と人差し指、中指の三本で柔らかく持ち、叩いた後太鼓に触れている時間を極力短くする。中腰になって踊るように叩く打法もあり、リズムさえとっていれば良いというものではない。

太鼓下ろし(タイコオロシ)
 囃子方の、太鼓を交えた最初の合同練習のこと。その時期は各地区で異なる。太鼓下ろしがあるまでは各楽器で各自練習。

台車(ダイシャ) 東組台車
 山笠の土台の部分。内側に前後方向の太い板が二枚あり、それを前後から太い板で挟み、それを左右外側から挟む構造になっている。
前後方向の四本の板の、外側の隙間に三つずつ六つの車輪を入れて、そこに心棒を通して栓をする。その上には薄い板を並べてはめ込み蓋をし、外周に十二本の柱を差し込んで立て、そこから上に地山を組み上げていく。

 台車の構造としては類似する組み方の山車も見かけるが、天秤をきかせての六輪ということについては珍しいようである。

台出し(ダイダシ)
 山小屋から台車を出すことで、要するに山つくりを始めること。おおむね、本番当日の三週間前に行われ、その日に山笠の前で神主による安全祈願も行われる。

(タキ) 滝左流れ、右流れ、左流れ
 山笠飾りの一つ。竹の枠に紙を張ったもの。

 流れ方には右流れと左流れがあるが、正面のものは浜崎には無い。また、横幅が広く野面と同じような形のものは「野面滝」と呼ぶ。
左右交互に付けるという決まりは、山つくりに参加する者の中では有名。これは絶対の決まりではないが、上から下までの流れを考えるためには、基本的には正しい。

団車(ダンジリ)
 囃子の曲名で、「二上リ寅市」のこと。座り山の囃子。

 「二上リ寅市」と「寅市」は類似した部分が多く、微妙な差を区別できない者もいるため、東組(大江)の囃子方ではどちらか片方を主に囃す曲にしようという話になった。話し合いの結果、濱組が「寅市」の方を主に囃しているようだということ、「寅市」には「祇園囃子」とまぎらわしい部分もあることなどから、「二上リ寅市」を取る事となった。
 この際、名前から亜流である印象があり、未熟なものが「寅市」の方を習いたいと言わないように、別の独立した名前をつけようという話になった。当時の笛の頭が「大阪あたりにだんじり祭りという良い祭りがあると聞いた」ということで、そこから取って「団車」とする案が出された。
ただし、このだんじりを「団車」とする漢字表記は伊万里におけるもので、大阪の方では別の漢字をあてているようである。
これは「段櫃」と響きが紛らわしいということで反対もあったが、皆で混同しないよう気をつけるということで、結局「団車」に決められた。
しかし、三味線の譜面か何かに一度誤って記載されたらしく、呼び名が混乱している。

 この囃子の中には「ててりこしゃんしゃん」という変わった掛け声があるが、これは「松囃子」の「すとろこすとろこすっとんとん」の掛け声が好きなので囃せという曳き方と、「松囃子」は他所の得意な囃子なので囃さないという囃子方の間で話がつかなかったときに、妥協案として作られた掛け声であるらしい。
元々のここでの掛け声は「どっこいどっこい」で、「ててりこしゃんしゃん」という言葉は口三味線をそのまま使ったものであるという。

段櫃(ダンヒチ)
 囃子の曲名。座り山の囃子で、当初からあった囃子ではないが、比較的古い囃子らしい。
 階段の段におひつの櫃と書く。意味は不明。
 他地区では「団七」とも書くようである。団七踊りというものが対馬にあり、浜崎地区は江戸時代対馬藩に所属していたこともあり、これが由来かと思った囃子方が曲のテープを取り寄せて聞いてみたが、残念ながら全く別物だったそうである。

竹紙(チクシ)
 竹の内側の皮で、の吹き穴の次にこれを張るための穴がある。竹の種類は、淡竹(ハチク)のものが良いという。

 竹紙は竹側に唾をつけて張る。後で調整がききにくいため糊などは使わない。竹紙は湿気によって伸び縮みするため、毎回吹く前に確認し、必要なら微調整をするし、吹いているうちに少し状態が変わって調整することもある。調整するときは唾で指を濡らして張ったり緩めたりする。ただし調整にも限界があるので、張りなおした方が早い場合も多い。
 緩く張った方がよく音が響くが、緩く張るほど息が弱いものは音を出せなくなる。自分の腕前に応じた調整が必要になる。

 竹紙は強い風を受けると笛の音が鳴らなくなる。また、雨天時などに穴の部分が濡れると緩んで音が鳴らなくなる。何かでこすっても簡単に破れるし、息が強いものは吹き破ることもある、デリケートな部分である。

 竹紙の張り方については地区ごとに、また同地区でも人によって違いがある。各々のこだわりが出るところだが、そればかり気にして吹いている時間が短い者は、下手くその証拠と言われ怒られる。吹いている途中で気にしなければならないような張り方をする者は、要するに張り方が下手だということで、笛の腕前は竹紙の張り方も含めて判断されるものだということである。
竹紙と笛
竹紙のとり方
節の両端で切った淡竹 息を吹きいれた後の淡竹の内側 切り欠いた方から竹紙をはがす
外にまだ皮がかぶっている若い淡竹を切ってきて、節の両端で切り落とす。
で中に見えているように内側の皮をめくり指で押さえ、竹と竹紙の間に息を吹き入れ、のように片側をもう一方までめくる。めくれた方の外側をのように切ってはがし、破れないように剥ぎ取って取り出す。

ひねって割った柔らかい淡竹 割れ目から取り出す竹紙
また、竹の先の方では手で雑巾を絞るように竹をひねってのように割り、のように引きずり出して取ることもできる。こうやって取れるものの方が上等らしい。ただしこうやって取れるものは数が少ないため、1〜3のように取れるものが多く使われている。

竹紙を乾燥させる
取った竹紙は、のように新聞紙等に挟んで乾かす。

提灯(チョウチン) 東組献燈用提灯
 提灯を持った人、運行について指示を出す人のことで、山笠の要所要所につく。この命令系統の一番上にいるのが献燈長で、赤い提灯を持つ。
運行開始、止め、左右の方向変え、曲がり始めの合図などの指示を出すほか、周囲の人が危険なところまで入ってこないよう見張る。

 山笠の台車を囲むように吊り下げられた提灯もあるが、これを指して言うことは少ない。

(ツナ)
 山笠を曳くための綱のこと。一本の綱を台車に通して、両方の先、二本に曳き方がついて曳く。
また綱についた者のことも言い、綱先綱中綱元と区別する。

 そのほか、「」の「綱手繰り」のことを略して「綱」とだけ言うこともある。

綱先(ツナサキ)
 左右のの一番先につく曳き方のこと。綱の向きをコントロールする。大まぎりの時などは長さの余った綱を肩にかけて走るため、足腰に自信が無ければつとまらない。

綱手繰り(ツナタグリ)
 「」の囃子の前半が変化した、綱を手繰るときに囃すときのものを指して言う言葉。ただし、正式な名称ではない。
略して「」とだけ言うこともある。

綱中(ツナナカ)
 左右のの中ほどにつく曳き方のこと。通常は綱が途中で折れないように調整したり、まぎる時は綱を折る点になって抑えたりする。

綱本(ツナモト)
 左右のの、台車近くにつく曳き方のこと。綱が根取りの邪魔をしないように抑えたり、天秤を利かせるために前方を引き上げる手伝いをしたり、根取りの補助的な役目がある。

襖開(ツマビラキ)
 囃子の曲名。当初からあった囃子の一つで、道行の囃子。
 襖をゆっくり開く様を表した曲と言われ、そのためゆっくり囃す曲であるといわれる。なぜ「フスマ」でなく「ツマ」と読むのかは不明。
舞台用語で「ツマ」と言うと床面に対して直角に立てるもので、その中に襖も含まれるため、何か関係があるかもしれない。

 「爪先で襖を持ってそっと開く」ということから漢字を「爪開」とする説もあり、これは爪先の「ツマ」と読むのでもっともらしいのだが、こちらの方が誤りとされている。

(ツヤ)
 囃子が微妙な指使いで聞かせる音色の感じ。これを効かせることを「艶ばつける」と言う。各地区によってつけ方は違うし、各人によっても異なる。

 一般に「艶つける」と言う場合は、方言で、格好つけた者を揶揄する言葉になるので注意。

天上屋形(テンジョウヤカタ) 左流れ天上屋形
 山笠の飾りの一つ、屋形の呼び方。
 山笠の一番上に飾った屋形のことで、この上に御幣を掲げ、運行中はここに神様が宿るという意味から「天上」と呼ぶ。このため形の整った立派な屋形にするのが決まりであり、近年は専用に作ったものを使うようになっている。

 年寄りの中には、御幣を付けた後は祭りが終わるまで触ってはならない、ばちがあたるという人もいた。

電線除け(デンセンヨケ) 電線除けと見られる棒
 昔は運行路に邪魔になる電線があったため、運行中に山笠の上に乗って除ける係の者がいたという。
 実際、写真館に掲載している年代不詳写真の中には、電線除けの道具と思われる棒が写っているものがある。かなり長く、先が丸く股になっていることがわかる。

 現在は運行路に除ける必要のある電線が無いため、この係は存在しない。

天秤(テンビン)
 浜崎の山笠には左右に二つずつ、前、中、後に三つずつで計六個の車輪がついている。

 よく他所の祭の人が浜崎の祇園を見物に来たときに「六輪では摩擦が大きいので旋回させにくいはず、なぜ六つもあるのか。」と言われるのだが、中の車輪は前後より軸の穴が一段低くなっているため、実際に地面についているのは中の二つと前か後ろいずれかの二つ、合計四つである。
 この状態を「天秤が利いている」と言い、てこの原理により前に重心がかかっているときは旋回しにくく、後ろにかかっているときは旋回しやすくなる。これを使い分けることができるのが、浜崎祇園山笠の台車の特徴である。
 車輪の磨耗や心棒の破損など、何らかの理由で天秤が効かなくなったときは旋回が困難になる。

 また、山笠が前後に傾くことで勢いがつき、動き出しを楽にする効果もあるらしい。

 そのほか、槍出しの大きいものには引き上げるための向きの違う棒をつけることがあり、この棒のことも天秤と呼ぶ。

東府屋(トウフヤ)
 囃子の曲名。道行の囃子で、比較的新しい囃子。

 この「東府屋」というのは曲を教えた者の屋号であり、教える際に曲名については浜崎の方に任せたという。「自分が教えたと言う事は伝えなくてよい(伝えてはいけない)ので、自分の名前を入れた名前にはしないように」という旨の事を言ったというが、誰もなかなか曲名をつけることが出来ず、とりあえずと言う事で呼び名にしていた「東府屋」がそのまま曲名として定着してしまったという。
 この由来を信じれば習った時点で曲名が無かったと考えられ、浜崎祇園のために作曲されたものではないか、という推測もできる。
 他地区では「豆腐屋」と書くようである。

遠見(トオミ) 足利義満と京都の遠見
 山笠の飾りで、遠景を描いた広い板。
 外題の時代や土地を表すのに重宝する。主に南瓜棚付近の柱に取り付ける。舞台用語でも遠景を描いた板や幕を「遠見」と言うらしいが、何か関係があるのだろうか。

燈籠(トウロウ) 平成四年東区表
 夜の山笠を照らす光。昔はろうそくの火だった。その頃は火の番のため運行中上に登っていた者がいたという。昔の舗装されていない道路や山笠の高さを考えると、恐ろしい話である。
 その後下から投光機で照らす時代を経てバッテリーによる電気照明になり、現在は発電機による電気照明になっている。

寅市(トライチ)
 囃子の曲名。当初からあった囃子の一つで道行の囃子。
寅年の寅に市場の市と書く。曲名の由来は作者名ではなく、場所の名前であるらしいが地名ではないという。詳細は不明。

緞帳(ドンチョウ) 東組緞帳
 山笠の前方に吊られている幕で、真ん中を上げて結んである。模様、色などは三地区で全く異なる。

 東組では、の前三人が前を見通せるように、運行中は全部上げてしまう。太鼓は外の見通しが結構悪いので囃子の切り替えについて助言したり、ピーツーを合わせようとする意思統一がしやすい等の理由だろう。


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